1秒あたり$0.02。Lucy 2.5は一見かなり安く見えますが、4時間配信すれば請求額は$288に膨らみます。DecartのLucy 2.5リアルタイム動画は、ライブ映像をAIで変換できる広く利用可能なAPIです。ただし、ローンチ時に示された1080pはAPI仕様に記載された解像度ではありません。また、話題になっている低遅延も、カメラから画面までの実測値ではなくモデル側の数字です。この記事では、マーケティング上の表現と公式ドキュメントの記載を切り分け、1時間単位のコストに換算したうえで、利用方法まで確認します。
Lucy 2.5リアルタイム動画でできること
Lucy 2.5は、Decartが2026年7月16日に「Raising the Bar for Live AI」として発表したリアルタイムvideo-to-video編集モデルです。映像はWebRTC接続で入力し、テキストプロンプトや任意の参照画像で変換内容を指定します。編集済みのフレームは、最大30fpsとうたわれています。
ここで重要なのは、Lucy 2.5が何もないところから完成動画を生成するモデルではないという点です。既存のライブ映像に対して、スタイルを変えたり、物体を追加・置換・削除したりする、ライブエフェクト/コンポジット向けの仕組みです。Theoretically MediaのTim Simmons氏も、これはノンリニア編集ではなく、配信映像にリアルタイムで効果を重ねるものだと説明しています。現時点ではAPIのみで、「アプリ版はまだない」。Decartのローンチ動画に登場するスマートフォンを手にした製品も、「利用可能な製品ではない」としています。
APIドキュメントによれば、入力はライブ映像と録画映像の両方に対応します。また、falのモデルページでは、同社の規約に基づく商用利用が認められています。Decartは、2026年5月にRadical Ventures主導で調達した$300Mを含め、累計で$450M超を調達しています。
「1080p対応」と考える前に確認したいAPI仕様
ローンチ資料とfalのモデルページでは、Lucy 2.5は30fps・1080pとして紹介されています。一方、Decart自身のAPIドキュメントが明記している出力は1280 × 720です。アスペクト比は16:9の横向き、または9:16の縦向きに対応します。
一般公開された1080pエンドポイントが公式に記載されるまでは、720pを前提に設計するのが安全です。API契約に書かれているのが720pであり、料金例も720pを基準にしているためです。
フレームレートについても同じ注意が必要です。「30 FPS」という表現はマーケティング文言として登場するものの、測定方法は公開されていません。Decartは配信に使っているハードウェア、モデルサイズ、カメラ入力から再生までのテスト結果も開示していません。
外部の参考値としては、2026年5月の研究プレプリントSANA-Streamingがあります。同論文は単一のRTX 5090上で、1280 × 704の映像についてエンドツーエンド24fps、拡散トランスフォーマー部分だけなら58fpsと報告しています。これはLucyのベンチマークではありません。ただ、「30 FPS」という数字も、どの地点で測った値なのかが定義されなければ、性能を判断する材料としては不十分だということです。
「ほぼゼロ遅延」はどこまでを指すのか
Lucy 2.5について語られる遅延値は3種類あり、それぞれ測っている範囲が異なります。$300Mの調達発表と同時に公開されたDecartのDOS 2.0インフラ記事は、モデル応答が30ms未満だとしています。Hugging Faceのコミュニティ記事は、Decartの推論スタックについて、720pで40ms未満の推論時間を紹介しています。そこではMXFP8/NVFP4量子化、動的スパースアテンション、ディープカーネルフュージョンなどが使われ、4倍の高速化という説明も、計算負荷がボトルネックになる処理に限った数字だとされています。
ただし、いずれの資料にも、カメラで撮影してから視聴者の画面にピクセルが表示されるまでのエンドツーエンド遅延は記載されていません。実際の経路にはWebRTCの転送、エンコード、プレーヤーが含まれ、ネットワーク条件によっても変わります。自分の環境で確認するなら、カメラ映像に見えるタイムスタンプを入れ、対象ネットワークとプレーヤー経由で表示された出力との差を測るのが確実です。
8種類の編集モードと、Self-Anchoringを切るべき場面
Lucy 2.5の公式ドキュメントで確認できる編集操作は8種類です。テキストプロンプト、参照画像、またはその両方で制御できます。
| 編集モード | ライブ利用の例 |
|---|---|
| キャラクター置換 | VTuberのアバターやブランドマスコットの差し替え |
| バーチャル試着 | ライブコマース中の衣服変更 |
| 物体追加 | 商品デモへのインタラクティブ要素の追加 |
| 物体置換 | 背景にある物体の差し替え |
| 物体削除 | 背景を再構成しながら不要物を除去 |
| 属性変更 | 色、サイズ、位置の変更 |
| 背景置換 | グリーンバックなしでライブ背景を変更 |
| 全体スタイル変換 | 昼の風景をサイバーパンク調にする、ライブVFX |
モードの数以上に重要な制御項目が2つあります。1つ目はSelf-Anchoringです。これは、モデルが直近の出力を参照画像として再利用し、長時間の配信で人物や物体の同一性が崩れるのを抑える仕組みです。初期状態で有効になっており、接続時にしか変更できません。
Decartのドキュメントでは、カメラが大きく切り替わる場合、新しい人物が画面に入る場合、シーンが大幅に変わる場合は無効にするよう注意しています。アンカーが、すでに存在しない世界を参照してしまうためです。設定変更には再接続が必要なので、マルチカメラ構成ではあらかじめ再接続を前提に設計しておきましょう。
2つ目は参照画像です。公式に示された要件は、明瞭で十分に明るく、遮蔽物がなく、最低512 × 512ピクセルであること。さらに、元の映像と構図を合わせる必要があります。暗い画像や映像と合っていない参照画像では、置換処理そのものが失敗することがあります。
リアルタイム生成とオフライン生成、使い分けの基準
Runway、Pika、Soraクラスのオフライン生成ツールとLucy 2.5は、そもそも解決しようとしている課題が違います。「どちらが優れているか」という問いへの答えは、用途次第です。判断材料になるのは次の4点です。
- インタラクション性。視聴者やカメラの動きに合わせて、その場で映像を変えたいならリアルタイム一択です。オフラインツールは、プロンプトを入力して待つ方式になります。
- 尺。オフラインツールは通常5〜60秒のクリップを扱い、RunwayやPikaクラスの製品ではレンダリングに数秒から数分かかります。これはHugging Faceの比較に基づくものです。Lucyは連続配信が可能で、falは人物の同一性を崩さず数時間動かせるとしています。ただし、長時間の負荷テスト結果は公開されていません。
- 画質の下限。1080p以上の最終納品物なら、現時点ではオフラインレンダリングが優位です。API仕様上の出力が720pだからです。Tim Simmons氏が提案する現実的な混合ワークフローは、ライブプリビズ。スマートフォンで撮影し、Lucyで処理した映像をその場で確認してから、最終版をオフラインのvideo-to-videoモデルで仕上げます。
- コストのかかり方。オフラインツールは生成クリップ単位、Lucyはストリームの稼働秒数単位で課金されます。後者は時間が長くなるほど効いてきます。
ユーザーが求めているものは何でしょうか。r/generativeAIでは、u/TastyFootingが魅力を端的にこう表現しています。
「テキストプロンプトによるリアルタイムvideo-to-video生成。もうレンダリング時間はいらない」(出典)
コミュニティでは、u/ai_art_is_artの「こういうモデルに用途はある?VTubing?」という疑問や、r/AINewsAndTrendsの投稿者による「デモ以外でも同じように動くなら」という反応も見られます。
一方、falのモデルページが挙げる用途は、ライブショッピングとバーチャル試着、リアルタイムの商品配置、インタラクティブ配信、アプリ内のシーン変換、ゲーム、ライブ内覧でのバーチャルステージングです。Hugging Faceの記事では、VTubingや広告バリエーションの制作も用途として紹介されています。リアルタイム生成が動画APIの勢力図をどう変えるかは、SeedRealtimeについての解説も参照してください。
配信コストの現実:重要なのは1秒$0.02ではない
公開されている利用経路は2つあり、料金も異なります。
| 経路 | 料金 | 1時間の稼働 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Decartの直接API | $0.02/秒(720p) | $72 | 新規アカウントにはテストクレジットあり。ボリューム料金は交渉可能 |
| fal serverless | $0.04/秒 | $144 | Playground込み、最低利用量なし |
Decartの料金例は短時間の利用を基準にしています。リアルタイムセッションは30秒で$0.60、オフラインの720p編集は5秒で$0.20です。両プラットフォームとも、料金ページによれば視聴時間ではなく生成が実際に動いている秒数で課金します。判断に効いてくるのは、むしろ長時間利用時の数字です。
平日に1日4時間稼働させると、falでは1日あたり約$576、月22営業日ならネットワーク費やモデレーション費を除いておよそ$12,700です。連続生成では、安い秒単価が時間単位の同時実行数の問題に変わります。視聴者ごとに独立したLucyストリームを開くアプリでは、1時間あたりのコストが同時接続数に応じて増えていきます。生成APIを比較するときの、秒・クリップ・トークンといった課金単位の違いについては、動画生成APIの料金ガイドで解説しています。
対策は構成面から考えられます。カメラがアイドル状態の時間まで生成を動かす必要はありません。実際にコンテンツがあるときだけストリームを有効にしましょう。また、経路を選ぶだけでも請求額は半分になります。同じ720p出力で比べると、Decartの直接APIはfalの半額です。一方、falにはPlayground、商用利用条件、エコシステムが含まれます。どちらを選ぶべきかは、モデルそのものより、その周辺に何を求めるかで決まります。
利用開始まで:Decartの直接API、Playground、fal
自分の顔を使ってLucy 2.5の反応を最短で試すなら、Decartのブラウザー体験lucy.decart.ai、またはデモ用Playgroundのdemos.decart.aiが手軽です。新規アカウントにはテストクレジットが付与されるため、最初のテストセッションをまかなえる可能性があります。コードを書く前に、参照画像とプロンプトの書き方をここで確認しておくとよいでしょう。
リアルタイムLucy 2.5のドキュメントに記載されたDecart直接APIの基本的なWebRTCフローは次のとおりです。
- API認証情報を取得し、
lucy-2.5モデルでリアルタイムセッションを作成する - WebRTC接続を確立し、Self-Anchoringとプロンプト拡張を接続時に設定する(Self-Anchoringを後から変更するには再接続が必要)
- ライブまたは録画済みの入力メディアをセッションに接続する
- アクティブな接続を通じてテキストプロンプトと参照画像を送信する。参照画像はセッション途中でも更新できる
- 編集済みの出力トラックを受け取り、接続が切れた場合は内蔵の自動再接続(指数バックオフ、最大5回の再試行)を利用する
fal経由で統合する場合は、次の5ステップです。
npm install --save @fal-ai/client- falのアカウントを作成し、ダッシュボードからAPIキーを取得する
decart/lucy-2-5/realtimeへのWebRTC接続を開く- バックエンドの
tokenProviderから短命のJWTを提供する(falのサンプルではトークンの有効期限を10秒に設定)。ブラウザーだけで完結し、フロントエンドにキーを埋め込む構成ではない onResult/onErrorで結果とエラーを処理し、ライブ接続上でプロンプトを送信する
falのモデルページによれば、クライアント側の経路としてJavaScript、Python、通常のRESTを利用できます。OBSについては、試作と本番を分けて考えましょう。Decartの体験サイトをブラウザーソースやウィンドウキャプチャで取り込む方法は、見た目を試すには十分です。しかし本番パイプラインでは、自分で統合したAPIのWebRTC出力を取り込む構成が望ましいでしょう。Hugging Faceの記事では、既存の配信構成を変えずにWebRTC経由でOBSを利用した例が紹介されていますが、取り込み、遅延、再接続の挙動は自分の環境で検証してください。同じ記事では、モバイルアプリ向けのAndroidおよびiOS SDKにも触れています。バージョン間の挙動を比べたい場合、Lucy 2.1は現在もfalで利用できます。falをプラットフォームとして詳しく評価した記事は、fal.aiレビューも参照してください。
ライブ公開前に確認すべき開示ルール
人物や服装、環境をライブ映像の中で変えられるモデルでは、コンプライアンスは後付けのポリシー対応ではなく、システム要件になります。Decartの許容利用ポリシー(2026年2月12日更新)は、明確で目立つ開示と検証可能な同意なしに実在人物へなりすますことを禁止しています。さらに、AI生成・改変コンテンツであることの開示、適切なモデレーション、技術的に可能な場合の機械可読なマークの保持を、導入者に求めています。
別途、EUの透明性義務は2026年8月2日から施行され、検出可能なAI生成コンテンツへの機械可読なマーキングと、ディープフェイクに該当する用途での導入者による開示を求めます。EU向けに展開するなら、公開後ではなくローンチ前に、適用される透明性と来歴情報の義務を確認しておきましょう。
今、Lucy 2.5で開発すべきか
| プロジェクト | 判断 |
|---|---|
| ライブ配信エフェクト、VTubing、視聴者参加型動画 | 今すぐ開発 — まさにこのモデルが得意とする領域 |
| ライブコマースの試着、商品配置デモ | 今すぐ開発。720pで試作し、自分の映像で編集対象の分離を確認 |
| 1つの素材から広告バリエーションやローカライズを作成 | 今すぐ試験導入 — 経済性が見えやすい有力な初期用途 |
| オフライン最終レンダリング前のライブプリビズ | 今すぐ開発 — 30秒のルック確認が$0.60なら、撮り直しより安い |
| 最終納品用の1080p以上の映像 | 待つ — 公式に記載されたAPI出力は720p |
| 予算重視で大規模に連続配信 | 待つか、厳密に稼働を制御する — 時間課金はクリップ単位の料金より速く膨らむ |
今後注目すべきなのは、Decartが1080pの公開ルートを提供するかどうかです。実現すれば、オフライン生成とリアルタイム生成の画質差は大きく縮まります。それまでは、契約上の出力は720pであり、より高い数字は将来の方向性を示すものだと考えておくのがよいでしょう。
Lucy 2.5リアルタイム動画 FAQ
Lucy 2.5は本当にリアルタイムですか?
ライブWebRTCストリームに対して、最大30fpsとうたわれる速度で編集を適用でき、モデル側の遅延は30〜40ms未満とされています。その意味ではリアルタイムです。ただし、カメラ入力から再生までを測った独立したエンドツーエンドの実測値は公開されていません。現状の「リアルタイム」はデモで確認されたものであり、ベンチマークで検証されたものではありません。
Lucy 2.5 APIの出力解像度は?
API仕様に記載されているのは、16:9または9:16の1280 × 720です。ローンチ資料では1080pとうたわれていますが、2026年8月下旬時点で、公開された1080pエンドポイントはドキュメント化されていません。
Lucy 2.5は1時間いくらですか?
Decartの直接APIは、720pで稼働1秒あたり$0.02、稼働1時間あたり$72です。falでは同じモデルが1秒あたり$0.04、稼働1時間あたり$144になります。どちらも視聴時間ではなく、生成が実際に動いている時間で課金されます。
Lucy 2.5はOBSで使えますか?
試作目的なら使えます。ブラウザー体験をブラウザーソースやウィンドウキャプチャでOBSに取り込めます。本番利用では、採用する前に自分の配信スタックでWebRTC取り込みの構成を検証してください。
Lucy 2.5とLucy 2.1の違いは?
falのバージョン比較によれば、Lucy 2.5は物体、衣服、キャラクター、属性、背景、スタイル、VFXまで編集対象を広げています。また、プロンプトへの追従性、編集対象の分離、参照画像への忠実度も改善したとうたわれています。以前のリアルタイムエンドポイントであるLucy 2.1は、現在もfalで利用できます。安定性の基準として比較したい場合は、自分の映像で両方をテストしてください。