言葉の通じない相手と話すとき、スマートフォンが翻訳を終えるのを互いに待つ必要はありません。Gemini 3.5 Live Translateでは、話し手のテンポや抑揚を保った翻訳音声が、数秒遅れて相手の耳に届きます。Googleが2026年6月9日に発表したこのモデルは、70以上の言語でリアルタイム音声翻訳を行うGoogleの音声入力・音声出力モデルです。現在はGoogle Translateアプリ、Google Meet、開発者向けGemini Live APIの3つで利用できます。無料枠も用意されており、有料利用は音声1分あたり約$0.037です。従来の「話す、待つ、聞く」翻訳とは異なり、会話を止めずに進められることが最大の違いです。
Gemini 3.5 Live Translateは何が違うのか
Googleはこれを、翻訳済みの音声をストリーミングで直接返す音声入力・音声出力モデルと説明しています。従来のツールは、音声を文字起こしし、そのテキストを翻訳してから読み上げる仕組みでした。そのたびに待ち時間が発生します。Gemini 3.5 Live Translateは音声をストリーミング処理し、話し終わりを待たずに継続的に翻訳音声を出力します。話者から数秒遅れる程度で追従する設計です。
一般的な翻訳ツールと比べて際立つ点は3つあります。まず、話されている言語を自動判別するため、設定を切り替えなくても1つの会話で70以上の言語を扱えます。グループ利用では2,000以上の言語組み合わせにも対応します。次に、話者のイントネーション、話す速さ、声の高さを残すため、機械的な読み上げより自然に聞こえます。さらに、生成するすべての音声には、AI生成メディアを識別するGoogleのSynthIDウォーターマークが付与されます。DeepMindのモデルカードによれば、基盤はGemini 3 Proアーキテクチャで、入力コンテキストウィンドウは131,072トークンです。
今すぐ使える3つの場所
Gemini 3.5 Live Translateは単独の製品名ではありません。1つのモデルが3つのサービスに展開されており、どこで使うかによって利用方法も変わります。
Google Translateアプリで使う
日常会話向けには、Android版とiOS版のGoogle Translateアプリでグローバル展開が進んでいます。Live translateモードを開き、言語を選ぶか自動検出に任せて話すだけです。Androidには新しいリスニングモードがあり、翻訳をスマートフォンの受話口から再生できます。端末を交互に渡すよりも、通訳用ヘッドセットを着けて1対1で会話する感覚に近づきます。
Google Meetで使う
Google Meetでは、このモデルを使った音声翻訳がエンタープライズ顧客向けにプライベートプレビューとして提供されています。従来のMeet翻訳は対応言語がおよそ5言語でしたが、新バージョンでは1つの会議内で70以上の言語、2,000以上の言語ペアに対応します。参加者は会話が続くなかで、それぞれ自分の言語で内容を聞けます。
Gemini Live APIから使う
開発者向けには、Gemini Live APIとGoogle AI Studioでパブリックプレビューとして提供されています。自社アプリ、コールセンター、ストリーミング製品へ翻訳機能を組み込みたい場合はこちらです。GoogleはすでにAgora、LiveKit、Fishjam、Pipecat、Vision Agentsといったリアルタイム音声プラットフォームとの統合を進めています。またGrabは、月間1,000万件超の音声通話を扱うネットワークで、ドライバーと乗客の通話向けにテストしています。
Live APIの呼び出し方
モデルIDはgemini-3.5-live-translate-previewです。Live APIのWebSocketへ直接接続するか、PythonおよびJavaScript向けGenAI SDKを経由して接続し、双方向に音声をストリーミングします。最小構成のPythonコードは次のとおりです。
from google import genai
from google.genai import types
client = genai.Client()
config = types.LiveConnectConfig(
response_modalities=["AUDIO"],
translation_config=types.TranslationConfig(
target_language_code="es-US", # BCP-47 target
output_audio_transcription={}, # also return text
),
)
async with client.aio.live.connect(
model="gemini-3.5-live-translate-preview", config=config
) as session:
await session.send_realtime_input(audio=mic_chunk) # 16 kHz PCM, ~100 ms
async for msg in session.receive():
play(msg.data) # 24 kHz translated audio
まず確認すべきなのは音声フォーマットです。入力は16 kHz、モノラル、リトルエンディアンのraw 16-bit PCM。出力は24 kHz、モノラルのraw 16-bit PCMで返されます。マイク音声はおよそ100 ms単位で送信します。翻訳の動作はtranslationConfigブロックで設定します(Googleドキュメントの完全なリファレンス)。
targetLanguageCode:出力したい言語のBCP-47コード。必須です。echoTargetLanguage:すでに対象言語で話されている音声も繰り返すかどうかを指定します。inputAudioTranscription/outputAudioTranscription:有効にすると、入力・出力の文字起こしテキストも受け取れます。
翻訳専用モデルのため、Geminiで一般的に使える機能の多くは無効です。function calling、thinking、structured outputs、キャッシュ、search groundingには対応しません。受け取るのは音声、返すのは翻訳音声と任意の文字起こしだけです。セッションには有効期限30分の一時トークンが使われるため、ブラウザクライアントに認証情報を渡す場合は注意が必要です。
Gemini 3.5 Live Translateの料金
パブリックプレビュー期間中は、実際に使える無料枠があります。通常のプレビュー向けレート制限の範囲内で、入力と出力はどちらも無料です。導入を決める前に、フロー全体を試作できます。
有料枠では、音声1秒あたり25トークンとして音声トークン単位で課金されます。
| モデル | 入力(100万トークンあたり) | 出力(100万トークンあたり) |
|---|---|---|
| Gemini 3.5 Live Translate | $3.50(約$0.0053/分) | $21.00(約$0.0315/分) |
| Gemini 3.1 Flash Live | $3.00(約$0.005/分) | $12.00(約$0.018/分) |
| Gemini 2.5 Flash Native Audio | $3.00 | $12.00 |
入力と出力を合わせると、Live Translateは翻訳音声1分あたりおよそ$0.037です。これは音声ストリームごとの料金です。30分間の双方向会話では入力と出力の両ストリームに課金されるため、通話ごとの固定料金とは考えず、1〜2ドル程度を見込むべきです。より安価なGemini 3.1 Flash Liveもありますが、こちらは汎用のライブ音声モデルであり、本モデルのようにイントネーション維持と低遅延の翻訳へ最適化されたものではありません。価格差は単なるトークン数ではなく、翻訳品質に対するものです。数値はGoogleの開発者向け料金ページを2026年7月15日に確認したものです。
導入前に確認したい制約
Google自身のモデルカードは、この点についてかなり率直です。軽視せず、運用設計に織り込むべき制約があります。
合成音声は一貫しないことがあります。長い間のあとに声が変わったり、見かけ上の性別が変化したり、複数人が素早く発話する場面で1つの声に固定されたりする可能性があります。落ち着いた1対1の会話より、テンポの速い4人会議のほうが負荷は高くなります。言語検出も注意点です。強い非ネイティブアクセント、近い系統の言語、文の途中での急な言語切り替えでは判定が難しくなります。背景ノイズはフィルタリングされますが完全ではなく、大きなノイズは翻訳音声にアーティファクトを生むことがあります。加えて、現時点のAPIプレビューは音声入力のみで、テキスト入力経路はありません。プレビュー提供である以上、動作や利用可能性が変わる可能性もあります。
静かな環境での1対1の会話なら、これらが致命的になるケースはありません。ただし、騒がしい会議室やコールセンターに投入する前には必ずテストしてください。
用途別に見る選び方
どれを使うべきかは、次の3つの質問で整理できます。
- 対面での気軽な会話で、双方がスマートフォンを使える? Google Translateアプリ版は無料で、セットアップも不要です。これが最も素直な選択です。
- 多言語での会議? 組織でプレビューにアクセスできるようになれば、Google Meetのエンタープライズ翻訳が選択肢になります。
- 自社プロダクトへ翻訳を組み込みたい? プログラムから制御できるのはLive APIだけです。予算は上記の料金を基準に見積もります。
従来のターン制翻訳、つまり「話す、ビープ音を待つ、聞く」という方法と比べると、連続的に翻訳するモデルは会話の流れを大きく変えます。人間の通訳と比べれば、数十の言語で即座に使え、費用もはるかに低く抑えられます。一方で、ニュアンス、慣用表現、失敗できない場面での正確さは依然としてプロの通訳が優位です。前述の制約からも、その点は明らかです。
プロダクトに組み込む場合は、音声レイヤーとテキストレイヤーの請求が別であることも覚えておきましょう。翻訳にはGoogleのLive APIを使いますが、その後の要約やアクションアイテム抽出には別途選んだテキストモデルを使うことになり、API料金はプロバイダーによって大きく異なります。
関連記事
- Googleのもう1つのリアルタイム・マルチモーダルモデルについては、Gemini Omni Flash pricing and API guideを参照してください。
- ライブ音声プロバイダー間で分単位の費用を比較するなら、OpenAI Realtime API pricingが参考になります。
FAQ
Google Translateでライブ翻訳を有効にするには?
AndroidまたはiOSでGoogle Translateアプリを開き、Liveモードまたは会話モードを選びます。2つの言語を指定するか、アプリの自動検出を使ってください。Androidではリスニングモードを有効にすると、受話口から翻訳を聞けます。
Gemini 3.5 Live Translateは何言語に対応していますか?
70以上の言語を自動検出できます。グループ利用では、1つの会話内で2,000以上の言語ペアを扱えます。
Gemini 3.5 Live Translateは無料ですか?
はい。入力・出力の両方に無料枠があります。Live APIの有料利用は音声1分あたり約$0.037で、入力は100万トークンあたり$3.50、出力は100万トークンあたり$21.00です。
iPhoneとAndroidの両方で使えますか?
はい。Google Translateアプリの展開対象にはiOSとAndroidの両方が含まれます。ただし、受話口で翻訳を聞くリスニングモードは、提供開始時点ではAndroidの機能です。
言語を誤って検出した場合はどうなりますか?
言語検出は自動のため、強いアクセント、近い系統の言語、素早い言語切り替えがあると、会話の途中で誤判定することがあります。長い間のあとには翻訳音声の声や性別が変わることもあります。静かな1対1の会話では問題になりにくい一方、騒がしい環境や複数人が速く話す状況では、依存する前にテストしてください。
個人的な会話にはTranslateアプリ、多言語チームにはMeet、管理できるソフトウェア内に翻訳を組み込むならLive APIを選びましょう。どの方法でも、導入を決める前に無料枠で試作することをおすすめします。